アボルブ(デュタステリド)の効果・使い方・注意点など
目次
アボルブとは
アボルブとは、前立腺肥大症の治療薬であり、排尿困難・頻尿・残尿感などの改善が見込めます。男性ホルモンの代謝物であるジヒドロテストステロンの過剰な働きを抑制することで、肥大化した前立腺を小さくする目的で使用されます。
有効成分のデュタステリドは、5α-還元酵素阻害薬に分類される医薬品で、男性ホルモンであるテストステロンがジヒドロテストステロンへと代謝されることを阻害し、前立腺肥大症や男性型脱毛症(AGA)の治療に用いられています。
ジヒドロテストステロンは、前立腺において5α-還元酵素により、男性ホルモンのテストステロンから変換されてつくられます。この5α還元酵素を阻害することにより、アボルブは前立腺肥大症に効果を発揮します。
ただし前立腺がんの指標であるPSA値を50%近く低下させるはたらきもあるので、血液検査などで前立腺がんの検査をする場合は、必ず事前にアボルブを飲んでいることを伝えてください。
前立腺肥大症とは
前立腺肥大症は、50歳以上の男性におこることの多い泌尿器疾患です。前立腺は、下部尿道にあるくるみ大の大きさを持った臓器で、真ん中を尿道(おしっこの通り道)が通っています。
この前立腺が何らかの原因で異常に肥大すると、尿道を圧迫してしまい、膀胱刺激による頻尿と排尿困難をもたらします。具体的な症状としては、排尿障害・頻尿・残尿感などが挙げられます。
他に排尿痛などの症状をまとめて、下部尿路症状(LUTS)といいます。前立腺肥大症がさらにすすむと、尿が完全にでなくなる「尿閉」という危険な状態につながることもあるため、注意が必要です。
前立腺肥大症の原因としては、男性ホルモンの過剰な働き・肥満・高血圧・脂質異常症・糖尿病などの生活習慣病が関わると考えられています。また前立腺肥大症は良性の腫瘍であるため、前立腺がんとは区別して考えられます。
40歳ごろから患者数が増加し、60歳では男性の約60%が、80歳では男性の約80%が、前立腺肥大症になるといわれています。中高年の方で、泌尿器のトラブルに心当たりがある方は、早い段階で検査を受けることが重要です。
前立腺肥大の診断
前立腺肥大症の診断は、国際前立腺症状スコア(IPSSスコア)というアンケートによって、排尿障害の程度の問診がおこなわれます。 IPSSスコアでは、合計点数が0〜7点を軽度、8〜19点を中程度、20点以上を重度としています。
また、経直腸的超音波検査(肛門から専用の超音波プローブを挿入して、前立腺の様子を観察)や尿流測定、直腸診などが行われます。他に尿検査や血液検査によって血尿の有無や腎機能の検査をおこなったり、前立腺がんの可能性があるかどうかも調べます。
前立腺肥大の治療方法
前立腺肥大症の治療は、薬物療法または手術により行います。基本的には薬物療法が優先されますが、薬物療法で対処できない場合には手術によって前立腺の切除をおこなうこともあります。
薬物療法としては、ハルナール(タムスロシン)やユリーフ(シロドシン)などのα1遮断薬が即効性に優れており、前立腺肥大における排尿障害の治療では第一選択薬として用いられています。
アボルブは前立腺肥大の原因となる男性ホルモンの代謝物ジヒドロテストステロンに対して作用するので、肥大した前立腺そのものを小さくする効果を期待して使用されます。
その他にも、抗アンドロゲン薬(ルトラール、プロスタールなど)・植物アミノ酸製剤(パラプロスト、セルニルトンなど)・抗コリン薬(デトルシトール)・フラボキサート(ブラダロン)・PDE-5阻害薬(ザルティア)・漢方薬などが用いられています。
一方、手術では開腹手術や経尿道的前立腺切除術(TUR-P)などが行われています。これは、内視鏡を用いて尿道から電気メスを挿入して、肥大した前立腺組織(腺腫)を尿道粘膜とともに切り取る技法です。
そのほかにも、現在では特殊なレーザー装置を用いた手術や小型の放射線物質を埋め込む小線源療法なども開発されており、より低侵襲で治療がおこなえるようになってきています。
前立腺肥大症の治療薬の種類
前立腺肥大症の薬物治療の主流となっているのは ハルナールなど前立腺と尿道を弛緩させ尿道を拡張するα1遮断薬と、アボルブなどジヒドロテストステロンを抑制する5α-還元酵素阻害薬です。
α1遮断薬は、前立腺部平滑筋にあるノルアドレナリンα1受容体を遮断することにより、前立腺の収縮をさまたげて、排尿障害と蓄尿障害を改善する効果が期待できます。
医療機関ではハルナール(タムスロシン)やユリーフ(シロドシン)などがよく処方されています。α1遮断薬は即効性に優れており、前立腺肥大における排尿障害の治療では第一選択薬として使用されていますがあくまでも対症療法です。
一方、アボルブは前立腺肥大の原因となる男性ホルモンの代謝物ジヒドロテストステロンに対して作用する医薬品であり、肥大した前立腺そのものを小さくする効果が期待できます。
前立腺自体が大きくなっている(前立腺体積30mL以上)症例では、アボルブが第一選択として推奨されており、他の抗男性ホルモン剤に比べて性機能に対する影響が小さいといわれています。
また、アボルブと同じ有効成分デュタステリドが配合された医薬品として、男性型脱毛症(AGA)治療薬ザガーロがあります。これは、ジヒドロテストステロンが脱毛にも関連しているからです。
おすすめデュタステリド商品
前立腺肥大とEDの関係
男性における泌尿器の疾患のなかでも前立腺肥大症とED(勃起不全症)の関係は、多くの患者さんにとって悩みの種となっています。はっきりとした仕組みは解明されていないものの、これらの2つの疾患は密接に関係していると考えられています。
EDは、勃起不全や勃起障害のことで性交時に十分な勃起やその維持ができない状態です。EDは心因性EDと器質性ED(またはこれら2つの混合性ED)に分類されており、生活環境や既往歴などのさまざまな要因が考えられます。
前立腺肥大症により、骨盤内の血流が少なくなることや勃起にかかわる神経が障害されることで、EDがおこると考えられており、ザルティアなどPDE-5阻害薬というお薬は、前立腺肥大症とEDの両方に効果があることがわかっています。
なかでも、効果の持続時間が長い有効成分としてタダラフィルは世界中で用いられており、高い治療効果が認められています。前立腺肥大症では低用量製剤のザルティアという名称で、EDではシアリスという名称で発売されています。
前立腺肥大のメカニズムとアボルブの作用機序
前立腺肥大はジヒドロテストステロンにより前立腺が過剰に肥大する疾患と考えられています。前立腺が異常に肥大してしまうと、尿道が圧迫されてしまい、排尿障害や頻尿、残尿感などの症状が出ることがあります。
アボルブはジヒドロテストステロンの合成を抑制し、前立腺の体積を縮小させて効果をあらわします。ただし、アボルブの効果が発揮されるまでには時間がかかることが知られているので、服用する際は長期目線で使用する必要があります。
アボルブの有効成分であるデュタステリドは、テストステロンをジヒドロテストステロンへ変換する、1型および2型5α還元酵素を阻害します。ヒトにおける臨床成績においても、血清中および前立腺組織中のジヒドロテストステロン濃度の低下作用が認められています。
これまでにも、前立腺肥大症の治療薬としては、抗アンドロゲン薬であるプロスタールなどの黄体ホルモン製剤が用いられてきました。しかし、男性ホルモンの本体であるテストステロンに直接拮抗してしまうため、女性化乳房や性機能障害などの副作用が問題となることがありました。
アボルブはテストステロンに対する直接的な拮抗作用がないため、これらの副作用がおこりにくいことが知られています。効果があらわれるまでに時間はかかりますが、6か月間内服することにより、前立腺の体積が30%以上縮小したというデータもあります。
ただし、服用をやめると元に戻ってしまうという報告もあるので、自己判断による服用の中止には注意が必要です。また、前立腺がんの指標としてもちいられるPSA値を50%低下させるはたらきもあるため、検査などを行う際は事前に医療機関に伝えるようにしてください。
アボルブの服用方法・副作用など
服用方法
前立腺肥大症の場合、デュタステリドとして1回0.5mgを1日1回、水またはぬるま湯で服用するようにしてください。服用する時間帯に指定はありませんが、安定した効果を発揮させるために、毎日同じ時間に服用することがポイントです。
服用開始後、比較的早いうちから症状の改善が認められる場合もありますが、治療効果を判定するためには6か月程度の服用が必要ですので、自己判断で服用を中止しないようにしてください。
カプセルの内容物が口腔内の粘膜を刺激することがあるので、カプセルは噛んだり開けたりしないようにしてください。また、本剤は皮膚からも吸収されることがわかっているので、女性や小児はカプセルから漏れた薬剤に触れないようにしてください。
副作用
- 勃起不全
- リビドー減退
- 女性化乳房
- めまい
- 射精障害
- 腹部の不快感
などがおもな副作用として報告されています。他に重大な副作用として、肝機能障害や黄疸なども報告されていますので、気になる症状がある場合は、すみやかに医療機関を受診してください。
使用禁止・併用禁忌
- デュタステリドおよび他の5α還元酵素阻害薬に対して過敏症の既往歴のある方
- 重度の肝機能障害のある方
- 女性および小児
はアボルブを服用することはできません。また、持病や併用薬がある方は慎重投与や併用注意にあたる場合もあるので、医師または薬剤師に必ず相談してから服用するようにしてください。
特にCYP3A4阻害作用の強い薬剤(リトナビル、イトリゾールなど)とは併用しないようにしてください。アボルブの代謝が阻害されることで血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まります。
アボルブの使用上の注意事項
アボルブは血中半減期が著しく長いため、服用中止後も薬剤の効果が続きます。前立腺がんの指標であるPSA値を50%近く低下させると報告されているので、検査前には必ず服用していることを伝えてください。
アボルブの有効成分デュタステリドは、ヒトの精液中に移行することが知られています。オーラルセックスなど、女性に対して直接精液が触れる行為は、避けるようにしてください。
胎児に対する影響
アボルブやザガーロなどのデュタステリドを主成分とした医薬品は、妊娠している女性が服用すると胎児に対する影響があると考えられていますが、妊娠している女性に対しての臨床試験はおこなえないため、人体に対する影響を調べたデータはありません。
しかし、ラットおよびウサギを用いた臨床試験では、胎児に対する異常(雄胎児の外生殖器の雌性化)が報告されています。これはデュタステリドによって血中のジヒドロテストステロン量が低下して、男子胎児の外生殖器の発達がさまたげられたと考えられています。
またアボルブやザガーロに配合されているデュタステリドは、服用しているヒトの精液中に移行することが知られています。精液を介して女性に作用する可能性もあるので、影響がある期間(1〜6か月程度)はセックスは避けた方が良いでしょう。
コンドームを用いた性行為は問題ないと考えられていますが、ピルや子宮内避妊用具など、精液が女性に直接触れる方法は控えるようにしてください。オーラルセックスなどについても、同様の理由から控えるようにしてください。
性機能・妊娠に対する影響
アボルブは、プロスタールなどの抗アンドロゲン薬に比べて、性機能に対する副作用が少ないことが知られています。しかし、勃起不全症などの副作用も一部では報告されているため性機能に対する影響は否定できません。
性欲の低下や、性行為時の中折れなどがみられる場合では、本剤の影響を考慮するようにしてください。しかし、自己判断でいきなり中止してしまうと、前立腺肥大症の症状が悪化してしまう可能性があるため、医師に相談してから中止してください。
また、アボルブは半減期(血液中のお薬が半分になるまでの時間)が非常に長いことが知られています。臨床試験によると、継続して服用している方(反復投与時)の消失半減期は、3週間前後とされています。
本剤の服用を中止してから子作りを行うまでの期間は、最低でも1か月以上を空けたほうが良いでしょう。また、半減期以降も薬剤の成分は残っており、体内から完全に有効成分が排泄されるまでには、6か月程度が必要となります。
アボルブとザガーロの違い
アボルブとザガーロは、対象となる疾患は異なりますが、同じ有効成分が配合された医薬品です。有効成分として配合されているデュタステリドは、もともとは前立腺肥大症の治療を目的として開発された成分です。
英国のグラクソ・スミスクライン(gsk)によって開発され、2001年に米国FDAにて、前立腺肥大症治療薬として承認されました。その後、発毛を促すはたらきがあることにも注目され、男性型脱毛症の治療にも用いられるようになりました。
国内では2009年7月に前立腺肥大症治療薬の「アボルブ」として、2015年9月に男性型脱毛症治療薬の「ザガーロ」として承認されています。どちらもテストステロンからジヒドロテストステロンへの変換を阻害することで効果を発揮します。
ジヒドロテストステロンは前立腺においては前立腺肥大症の、頭部においては男性型脱毛症の進行にかかわることが知られています。アボルブとザガーロには同じ有効成分が配合されていますが、それぞれ異なる適応のお薬で、使用する目的が異なっています。
アボルブは0.5mgカプセルのみ発売されているお薬で、前立腺肥大症の改善に用いられています。ザガーロは0.1mgカプセルと0.5mgカプセルの2種類が発売されていますが、保険収載されていないため、自費診療として用いられています。
アボルブの発毛効果
アボルブとザガーロは同じ有効成分デュタステリドであり、薬の吸収される仕組みも同じタイプの製剤であるため、アボルブにもザガーロ同様の発毛効果を期待することができます。
用法用量でもアボルブは1日1回0.5mg、ザガーロは1日1回0.1mg(上限量0.5mg)となっています。用量が多いほうが効果が高いとは一概には言い切れませんが、ザガーロとして用いる際の最大量が、アボルブには配合されています。
男性型脱毛症と前立腺肥大症をお持ちの方が、アボルブによって前立腺肥大症の治療をおこなっている際に、発毛がみられることも十分に考えられるのです。ただし、医薬品の説明書である添付文書において「保険給付上の注意」として下記の内容が記されています。
1.本製剤の効能・効果は、「前立腺肥大症」である。
2.本製剤が「男性における男性型脱毛症」の治療目的で処方された場合には、保険給付の対象としないこととする。
前述のように、ザガーロの代わりにアボルブを使いたいと考える患者さんは多いものですが、医師がアボルブを脱毛症のために保険を用いて処方することは、固く禁じられています。
よってアボルブに発毛効果を期待するのではなく、前立腺肥大症の治療をしているときはAGA(男性型脱毛症)の治療薬の併用には注意する必要があることを知っておいてください。
アボルブとザルティアの違い
アボルブとザルティアは、いずれも前立腺肥大症の治療薬として用いられるお薬ですが、これらの2剤は作用の仕組みが全く異なります。
アボルブは、5α還元酵素阻害薬に分類される医薬品で、有効成分デュタステリドがジヒドロテストステロンを抑制することで肥大化した前立腺を小さくする効果が期待できます。
ザルティアは、PDE-5阻害薬に分類される医薬品で、有効成分タダラフィルが配合されています。タダラフィルは、勃起不全症治療薬のシアリスや肺動脈性肺高血圧症治療薬のアドシルカの有効成分でもあります。
ザルティアは、血管平滑筋や内尿道括約筋のPDE5を阻害し、求心性の神経活動を抑制します。これにより尿道や前立腺の筋肉の緊張をやわらげ、尿道内部の圧力を下げることで排尿症状と蓄尿症状を同時に改善する効果が期待できます。
国際前立腺症状スコア(IPSSスコア)での改善率は、前立腺肥大症の第一選択薬であるα1遮断薬とほぼ同等であり、高齢者にも安全に使用できるお薬ですが、併用禁忌例も多いため、服用する際には医師の指示をしっかりと守ることが重要です。
おすすめザルティア商品
アボルブとプロスタールの違い
アボルブとプロスタールは、いずれも前立腺肥大症の治療薬として用いられる医薬品です。抗アンドロゲン作用がみられるという点でも類似していますが、アボルブの方がリスクリワードがよいと考えられています。
プロスタールは1981年に発売されたクロルマジノン酢酸エステルを主成分としたお薬です。男性ホルモンに直接拮抗することで効果を発揮しますが、その際に男性ホルモンのはたらきを弱めてしまうことで、インポテンツなどの性機能障害をおこしやすいことが知られています。
アボルブはプロスタールの欠点を解消した医薬品でもあり、2001年(国内では2009年)に発売されました。直接的に男性ホルモンに拮抗するのではなく、5α還元酵素を作用点としているので副作用が少ないことが特徴です。
アボルブは、男性ホルモン(テストステロン)には影響を与えず、前立腺肥大症の発症と進行にかかわるジヒドロテストステロンを減少させるので、性機能障害をおこしにくいと考えられています。
アボルブとハルナールの違い
アボルブとハルナールは、いずれも前立腺肥大症の治療薬ですが作用機序が異なる医薬品です。アボルブは5α還元酵素阻害薬に分類され、有効成分デュタステリドがジヒドロテストステロンを抑制することで、前立腺そのものを小さくするはたらきが期待できます。
ハルナールは、古くから男性の排尿障害において第一選択とされており、即効性が高く、前立腺や尿道の筋肉をゆるめるはたらきがあります。有効成分タムスロシン塩酸塩はアドレナリンα1遮断薬に分類されており、前立腺や尿道の筋肉の緊張をやわらげ、尿道内部の圧力を下げることで、前立腺肥大症における排尿障害を改善します。
男性の前立腺肥大症における排尿障害ではハルナールに代表されるα1阻害薬(特にα1Aに親和性があるもの)が第一選択とされていますが、前立腺自体が大きくなっている症例では、アボルブが第一選択として推奨されています。
おすすめハルナール商品
アボルブとユリーフの違い
アボルブとユリーフは、いずれも前立腺肥大症の治療薬として用いられる医薬品ですが作用する仕組みが異なるため、症状により使い分けることや、2剤を併用することもあります。
ユリーフは、男性の排尿障害において第一選択とされているα1遮断薬に分類され、有効成分のシロドシンは前立腺や尿道の平滑筋をゆるめることで排尿障害の改善が期待できます。
α1受容体には、α1A、α1B、α1Dの3つがありますが、肥大した前立腺においては、α1Aが最も多いことがわかっています。ユリーフは、α1阻害薬のなかでも最もα1Aに親和性が高いことが知られており、血圧低下などの副作用がおこりにくいとされています。
