前立腺肥大症とは|症状・原因・治療法
目次
前立腺肥大症とは
前立腺肥大症は男性特有の疾患であり、加齢とともに進行・罹患率が上昇する傾向があります。65歳以上男性では約10人に1人が病院で治療を受けており、病院で治療を受けていない患者を含めれば、65歳以上男性の約5人に1人は前立腺肥大症だと考えられています。
前立腺は男性器にあるクルミほどの大きさの臓器です。前立腺の役割は、精液に精子の保護や活性化の作用をする前立腺液を加えることです。膀胱の真下にあり、前立腺の中央を尿道が通っています。そのため前立腺が肥大化すると尿道が圧迫されてしまいます。
前立腺肥大症の主な症状は①排尿障害②蓄尿障害③排尿後障害の3つです。
①排尿障害
尿が出始めるのに時間がかかる・尿の勢いが弱い・排尿の途中で途切れるなどの症状です。前立腺が肥大することで尿道が圧迫され、尿が出にくくなることが原因で引き起こされる症状です。
②蓄尿障害
トイレが近くなる(頻尿)・急にガマンできない強い尿意がおきる(尿意切迫感)などの症状です。尿が出にくくなることで、膀胱内の尿が残留することが原因で引き起こされる症状です。
③排尿後障害
残尿感・ズボンにしまった後に尿が少し出るなどの症状です。尿が出にくくなることで、膀胱内に尿が残留すること・排尿タイミングが遅れることが原因で引き起こされる症状です。
他にも前立腺肥大症になると、尿路感染症を起こしやすくなる・尿道結石ができなくなるだけでなく、前立腺肥大が進行すると尿がまったく出ない「閉尿」という苦しい症状を起こすこともあります。早期からの治療が重要となる疾患と言えます。
前立腺肥大症の原因
前立腺肥大症の原因は完全には解明されていませんが、60歳以上のほとんどの男性に前立腺肥大傾向が見られることから年齢要因が大きいと考えられています。また、男性ホルモンを抑制することで肥大の進行がおさえられることから、男性ホルモンが関係していると考えられています。
男性ホルモンの代謝物であるジヒドロテストステロン(DHT)が増えると前立腺肥大が進行するとされています。ジヒドロテストステロンは、男性ホルモンが5α還元酵素という酵素によって変換されたホルモンで、幼児期と思春期に男性器の成長をうながす働きがあります。
しかし成人してからは、脱毛を促進する・前立腺を肥大させるなどの悪影響が出ることが多く、ホルモンバランスが崩れやすい50~60代以降は、ジヒドロテストステロンの過剰分泌が原因となり、脱毛や前立腺肥大症さらに前立腺がんなどの原因となることもあります。
また肥満・高血圧・高血糖・脂質異常などのいわゆるメタボリックシンドロームが、前立腺の肥大を促進するという説もあります。因果関係は明らかではありませんが、喫煙やアルコールの摂取も関係していると考えられています。健康のためにも生活習慣の見直しも必要かもしれません。
前立腺肥大症と性機能
前立腺肥大症になることは、男性の性機能にとってもマイナスであると考えられています。これは、過剰となっているジヒドロテストステロンを抑える前立腺肥大症の治療の副作用として、性欲減退や勃起障害などの副作用を引き起こすリスクがあるためです。
かと言って前立腺肥大症の治療をせずに放置してしまうと、症状がより悪化してしまい尿閉や前立腺がんの原因となってしまう場合もあります。そこで注目されている医薬品がED治療薬としても使用されているタダラフィルです。
タダラフィルは様々な疾患に適応があるため複数の商品名で販売されています。ED治療薬のシアリス、肺高血圧治療薬のアドシルカ、そして前立腺肥大症治療薬のザルティアです。ただし、それぞれ用法・用量が異なるため注意が必要です。
タダラフィルの作用メカニズムは主に3つと考えられています。①血管平滑筋のホスホジエステラーゼ5阻害による血管拡張②尿道括約筋・前立腺平滑筋のホスホジエステラーゼ5阻害による排尿改善③求心性活動抑制による蓄尿改善です。
肺高血圧治療薬アドシルカ・ED治療薬シアリスは①のメカニズムをおもに期待し、前立腺肥大症治療薬ザルティアは②と③のメカニズムをおもに期待しているので、用量がアドシルカやシアリスより少なくなっています。
そのためシアリスと比較するとザルティアではED治療薬としての効果は少ないと考えられますが、ジヒドロテストステロンを抑制するタイプの前立腺肥大症治療薬と比較すると性機能への影響は明らかにポジティブであると考えられます。
もちろんタダラフィルにも副作用はあるため、専門医の指導のもと慎重に使用する必要はありますが、性機能に悪影響を与えるどころか好影響を与える可能性がある治療薬です。性機能の副作用を心配される方は一考の価値があると思います。
前立腺肥大症の治療法
前立腺肥大症の治療には、薬物治療と手術による治療があります。薬物治療には、ジヒドロテストステロンを抑制する薬や前立腺の平滑筋を弛緩させる薬などがあり、重症の場合は前立腺摘出を行なうこともあります。
薬物治療
最もよく使用されているのはα1受容体遮断薬タムスロシン(商品名ハルナール)・シロドシン(商品名ユリーフ)などです,交感神経のアドレナリン受容体の一種であるα1受容体を遮断して、前立腺の平滑筋を弛緩させ交感神経の緊張を抑制することで排尿障害・頻尿・尿意切迫の改善が期待できます。
前立腺肥大症の原因と考えられているジヒドロテストステロンを抑制するのが、前立腺肥大抑制薬デュタステリド(商品名アボルブ)です。その作用機序からAGA治療にも使用されており、AGA治療薬ザガーロという名称でも販売されています。
男性ホルモンであるテストステロンを、ジヒドロテストステロンへと変換する5α還元酵素を阻害する薬です。テストステロンは5α還元酵素によってジヒドロテストステロンに転換されると前立腺の肥大や脱毛を促進するので、この酵素の働きを阻害することで病気の進行が抑えられます。
そして先述したタダラフィルなどのホスホジエステラーゼ5阻害薬が、前立腺や尿道の平滑筋を緊張させるホスホジエステラーゼ5という酵素を阻害することで、排尿障害や蓄尿障害を改善する治療薬です。
従来はED(勃起不全)の治療に使われていた薬なので、前立腺肥大にEDが併発している場合や性機能を低下させたくない場合にはメリットが大きいと考えられています。この他にも漢方薬が使用されることもあります。
手術治療
手術による治療は、肥大した前立腺の一部を切り取る治療で、開腹手術と内視鏡による手術があります。内視鏡による手術は身体への負担が少なくレーザー光線を用いて前立腺の一部を切り取るため、現在の手術の主流となっています。
前立腺がんの場合は放射性物質を手術で埋め込むことで、放射線照射よりも手間を掛けず持続的に治療を行うケースもありますが、前立腺肥大症ではメリットとデメリットを考えて行われることはほとんどありません。


















