女性の薄毛・FAGA・びまん性脱毛症とは|症状・原因・治療法

目次

女性の薄毛とは

加齢とともに起こる女性の薄毛は、「AGA(男性型脱毛症)」に女性を意味するF(フィメール)をつけた「FAGA(女性男性型脱毛症)」とも呼ばれています。

FAGAの研究が始まった当初は、AGAと同じものだと考えられていました。しかし研究が進むにつれ、FAGAとAGAでは症状や原因が異なることが分かってきました。

男性の薄毛(AGA)との違い

FAGAはAGAとは異なり、脱毛が急激に進行することはなく、加齢とともに少しずつ薄毛が目立ってくるのが特徴です。また、AGAの特徴である頭頂部や額の生え際の毛だけが薄くなることはなく、頭皮全体の髪のボリュームが減少します。

このような特徴から、FAGAは「びまん性脱毛症」の一種であると考えられています。「びまん」とは、何かが全体的に広がるという意味で、びまん性脱毛症は、脱毛が頭皮全体に広がる状態を指しています。

FAGAの発症には、AGAと同様にホルモンが関係しているといわれています。しかし、はっきりとした原因は未だ特定されていないのが現状です。AGAは特徴的な脱毛症状を示すため、診断は比較的簡単です。しかし、FAGAでは広範囲に脱毛症状が現れることもあり、見た目だけでは診断が困難であるとされています。

FAGAとAGAは、治療法にも違いがあります。FAGAの治療では、AGA治療で頻繁に使用されるデュタステリドやフィナステリドは使用できません。これらの薬は男性ホルモンに作用するため、特に妊娠中の女性が使用すると、お腹の赤ちゃんに重大な影響を与える可能性があるためです。

AGA治療薬として汎用されるミノキシジル外用薬は、女性でも使用可能です。ただし、女性が使用する場合は有効成分の濃度が2%までの製品に限られ、濃度が5%の男性用製品の使用については、国内では認可されていません。

びまん性脱毛症の症状

FAGAをはじめとするびまん性脱毛症では、頭皮全体の髪が進行性に薄くなります。自覚症状としては、次のような症状が代表的です。

  • 髪が細く、柔らかくなる
  • 洗髪時などの抜け毛が増える
  • 髪の立ち上がりが悪くなり、ヘアスタイルが作りにくくなる
  • 髪のボリュームが減り、ぺちゃんこに見える
  • 分け目や頭頂部の地肌が目立つ

FAGAの原因

FAGAの原因は、加齢によって卵巣の活動が終了に向かうことによる、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌減少です。

ヒトの毛根にある毛母細胞には、同じく毛根にある毛乳頭からの指令を受け、血液から栄養を受け取る役割があります。男性ホルモン(テストステロン)が変性すると、本来は髪の成長を促すはずの毛母細胞に対し「毛の成長を止めろ」という誤った指令を出してしまいます。その結果、頭皮全体の脱毛が進行していきます。

エストロゲンには、髪の寿命を延ばし成長を促す働きがあるため、エストロゲンの分泌量が多い閉経前の女性がFAGAに悩むことはほとんどありません。しかし、閉経によってエストロゲンの分泌量が減少すると、相対的にテストステロンの影響が大きくなり、薄毛が進行しやすくなります。そのためFAGAは、卵巣の活動が低下する40代ごろから発症率が高まるとされています。

FAGA以外のびまん性脱毛症

脱毛が頭皮全体に広がるびまん性脱毛症は、加齢による女性ホルモンの減少が影響するFAGAだけでなく、ヘアカラーやシャンプーによるダメージ、間違ったヘアケア、ストレス、生活習慣の乱れ、かたよった食生活などの原因でも発症します。

特に若い女性にびまん性脱毛症が見られた場合、過度なダイエットや栄養不良が原因のことが多いとされます。また、出産後に一時的に脱毛が増えた場合は、妊娠中に豊富に分泌されていたエストロゲンの分泌量が元に戻り、ホルモンバランスが急激に変化したのが原因です。

これらの脱毛症状は、原因を改善すれば数ヶ月で自然に回復するのが一般的で、FAGAには該当しません。

FAGAの治療法

FAGAは、40代から80代の数十年にわたって少しずつ進行するケースが多いため、早めに根気強い対策を開始することが重要です。

FAGAの治療としては、薬物療法、メソセラピー、LEDおよび低出力レーザー照射、自毛植毛などが行われています。

薬物療法では、ミノキシジル(外用薬・内服薬)、スピロノラクトン、低用量ピルといった薬剤が使用されます。

メソセラピーとは、注射器で頭皮に薬剤を直接注入する治療法です。使用される薬剤はクリニックによって異なり、ミノキシジルや成長因子を含む薬剤が使用されるのが一般的です。頭皮に注射をするため痛みを伴うことがありますが、最近では痛みに配慮した治療を導入するクリニックが増えてきています。

ただし、これらの薬剤によって発毛が維持されていた場合は、治療を中止すると効果の維持は期待できない点に注意が必要です。

自毛植毛は、髪が生えている部位を頭皮ごと採取し、髪が薄い部分に移植する治療法です。頭皮ごと移植するため、移植後も髪は伸び続けます。ただし、植毛した部分と本来の薄毛部分の境目が目立ってしまうケースもあります。

ここからは、FAGAの薬物療法について詳しく解説します。

FAGA治療で使われる薬

①ミノキシジル外用薬

ミノキシジルは血管を拡張させて頭皮の血行を改善する薬剤で、血行改善以外にも毛乳頭を刺激して発毛や育毛を促す作用もあると考えられています。元来は血圧を下げる高血圧の薬として開発されましたが、副作用として全身の多毛症が見られたため、発毛薬として転用された経緯があります。

ミノキシジルには、直接頭皮に塗布する「外用薬」と「内服薬」の2種類があり、女性のFAGAだけでなく、男性のAGA治療にも使用されています。

特にミノキシジルの外用薬は、FAGA治療では最も基本的な治療薬のひとつです。日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017 年版」では、女性の脱毛症に対して第1選択薬として推奨度Aに指定されています。

男性は通常ミノキシジルを5%の濃度で含む製品を使用しますが、女性は1%~2%の低濃度の製品を使用します。女性では、5%を塗布したときと2%を塗布したときを比較して、それぞれの改善率に明らかな差は認められていません。そのため、女性がミノキシジルの外用薬を使用する際は、あえて濃度の高いものを塗布する必要はないとされています。

ミノキシジルの外用薬で副作用が起こることは稀ですが、体質によってかぶれやかゆみなどの副作用が出る場合があります。妊娠中や授乳中の使用は安全性が確認されていないため、中止することが求められています。

女性用の低濃度ミノキシジル製品としては、国内製品では大正製薬のリアップリジェンヌが、海外製品ではツゲイン2が代表的です。

②ミノキシジル内服薬

内服薬(飲み薬)は有効性が高い脱毛治療薬として話題に挙がることもありますが、あくまで血圧の薬として開発された薬です。脱毛症に対する治療薬として認可されている国はなく、日本では有用性に関する臨床試験も実施されておらず、高血圧の治療薬としても認可はされていません。

また、副作用として全身の多毛症、胸痛、心拍数増加、動悸、息切れ、呼吸困難、うっ血性心不全、むくみや体重増加などの重大な心血管系障害が生じる可能性があります。もしも使用する場合は、必ず医師の処方の元で治療を受けましょう。

③スピロノラクトン

女性の薄毛治療クリニックでは、スピロノラクトン(商品名:アルダクトン)の内服薬が処方されることがあります。

スピロノラクトンには、尿の量を増やして体内の塩分や水分を排出し、むくみを改善し血圧を下げる作用が知られています。国内でも医療用医薬品として認可されており、高血圧やむくみの治療薬として内科で頻繁に使用されています。変性した男性ホルモン(テストステロン)が毛包に結合するのを妨げる効果もあるとされ、抜け毛やFAGAの予防効果が期待されています。

血圧を下げる作用があるため、高血圧ではない方がスピロノラクトンを服用すると低血圧となり、ふらつきや眩暈などを引き起こす可能性があります。服用中に運転をする際や高所での作業をする際には、特に注意が必要です。

④低用量ピル(薬物療法)

女性ホルモンのエストロゲンには髪の寿命を延ばし成長を促す働きがあるため、エストロゲンが含まれる低用量ピルの服用は、FAGAに効果的とされています。

しかし、低用量ピルによって血栓症の副作用を引き起こすリスクは、40歳過ぎから年齢とともに上昇します。そのため、40歳以降の低用量ピル服用は慎重に行うこととされており、40歳前に閉経した方や50歳以降の方については、服用が認められておりません。

また、低用量ピルが原因で脱毛症が生じたという内容の論文も報告されているため、一概に効果があるとはいえない状況です。

低用量ピルは開発された年代によっていくつかの世代に分類されますが、FAGAの治療には、第3世代と第4世代の低用量ピルが有効とされています。これらの低用量ピルには男性ホルモンの働きを抑える作用があり、特に第4世代には男性ホルモン作用が全くなく、FAGA治療に向いています。

商品名では、マーベロンやファボワールが第3世代、ヤーズやヤーズフレックスが第4世代に該当します。

脱毛症を予防するための生活習慣

脱毛が頭皮全体に広がるびまん性脱毛症は、生活習慣が原因で起こる場合もあります。

長年にわたりヘアカラーやパーマで毛髪や毛根にダメージを与えていると、脱毛が起こりやすくなり、進行速度も早まります。ヘアカラーを、ダメージの少ないヘアマニキュアに変えるなどの対策が効果的です。また、過度なシャンプーや皮脂を取りすぎるシャンプー剤による頭皮の乾燥も、脱毛の原因になります。強い紫外線は頭皮を与えるため、日傘や帽子で頭部のUVケアをすることも大切です。

極端なダイエットによる栄養不足はもちろん、偏った食生活も脱毛の原因となります。野菜不足や甘いものの食べ過ぎ、アルコールの飲み過ぎなどに注意し、バランスの良い食生活を心がけましょう。喫煙も脱毛の原因になるとされているため、脱毛が気になる場合は禁煙することが望まれます。

睡眠不足やストレスはホルモンバランスを乱すため、脱毛を進行させる原因になります。規則正しい生活や適度な運動習慣をつけるなど、できるだけストレスをためないように注意しましょう。