代表的な性感染症(性病・STD)|症状・原因・治療法

目次

性病(STD)とは

性病は、おもに性行為により感染する病気で、性感染症とも言われます。最近は英語の頭文字でSTD(Sexually Transmitted Diseases=性感染症)と呼ばれることも多くなりました。

現在、日本で最も報告数の多い性病はクラミジアであり、以下性器ヘルペス、淋病、尖圭コンジローマの順になっています。しかし世界で最も感染者数の多いトリコモナス症は、日本では報告義務はありませんので、実際はトリコモナス症が最も多いと考えられています。

昔は性病の代表と言われていた淋病と梅毒は年々減少傾向にありましたが、近年は出会い系SNSやマッチングアプリの影響により、爆発的に梅毒の患者数が増加していると報道がありました。

もちろん梅毒だけでなく、通常ではあまり交流のない不特定多数の異性との性行為が増えると、性病は増加するのは当然です。梅毒は年々減少していた感染者数が増加したのでニュースになりましたが、他の性病が増加している背景にはこのような環境が影響していると考えられます。

また感染者数は少ないですが、致命的な性病にHIV(エイズ)があり、感染すると免疫力が低下するため一生薬を飲み続けないといけません。その感染経路のため患者のほとんどは男性です。

性病の病原体

性病の病原体は細菌性のものとウイルス性のものに大別されます。性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HIV(エイズ)などはウイルスの感染による病気です。ウイルスは治療しても根絶することはできず、一部が体内に潜伏して免疫力が低下したときなどに再発することがあります。

一方、淋病や梅毒は細菌感染による病気なので抗生物質により根絶が可能とされています。またクラミジアは「偏性細胞内寄生細菌」といって、ウイルスに似た環境下で増殖する特殊な細菌であり、免疫が成立しにくく再発を繰り返すという厄介な特徴を持っています。

性病の症状の特徴

性病の特徴は重い自覚症状がないものが多いということです。もっとも報告数が多いクラミジアは男女とも症状がほとんどないケースが大半です。淋病は男性には強い痛みなどの症状がありますが、女性にはほとんど症状が出ません。

女性は症状が出なくても病気が子宮や輸卵管に広がって不妊症になることがあるので注意が必要です。輸卵管が炎症で癒着すると、治療が難しい重い不妊症になるので、感染予防が非常に重要です。

性病の患者の多い年齢

性病の患者がもっとも多い年代は、男女ともに20代で次に多いのが30代ですが、10代後半の患者数が年々増えています。これは性行為の早期化傾向だけでなく、短期間でセックスのパートナーが変わる10代の特徴によるとも考えられています。

セックスフレンドのようなネットワークや売春により、同時に複数のセックスパートナーがいることもあります。もし、ネットワークの中に性病に感染した男性か女性がいれば、感染はネズミ算的に拡大することになります。

また若者のコンドーム使用率が低いのも感染拡大の1つの理由です。他にもフェラチオなどのオーラルセックスが普遍化したのも感染拡大の理由と考えられます。オーラルセックスではコンドームを使用することは少ないので、感染率は必然的に高まってしまいます。

性病の予防

性病はコンドームを使用することで感染率を大きく下げることができます。しかし、フェラチオなどのオーラルセックスでも感染するので、コンドームを使用したとしても完全に感染を防ぐことはできません。

それでも、コンドームが有効な予防法であることには変わりないので、妊娠を希望していない人だけでなく、短期間にセックスパートナーが変わる人や、複数のセックスパートナーがいる人は、ピルを服用していたとしても必ずコンドームを使うようにしましょう。

性病の検査

性病にかかったかもしれないと思ったときは、まず病院で性病の検査をする必要があります。検査は女性は子宮の入り口の粘液を検査し、男性は尿を検査するのが一般的です。

性病に感染していることが分ったら治療をしなければいけませんが、そのときはパートナーも検査と治療が必要になります。一方だけが治療しても、パートナーからの再感染で病気が再発するからです。

トリコモナス症とは

トリコモナス症はトリコモナス原虫に感染することで発症する性病です。男性は感染してもほとんど症状が出ませんが、女性は感染すると臭いのきついおりものが出るのが特徴です。

性行為以外で感染することはほとんどありませんが、女性はまれに便器やタオルなどから感染することがあるとされ、海外と同様に感染者数は最も多いと考えられています。

日本では感染症定点観測の対象になっていないので正確な患者数は分りませんが、海外では女性の5〜10%、男性の1〜2%が感染しているとされています。ただし、感染している人がすべて発病するわけではありません。

トリコモナス症の潜伏期間は10日間前後です。男性は感染してもほとんど症状が出ません。排尿のときに原虫が排泄されることが多いためと考えられています。まれに尿道炎をおこして排尿痛や膿が出るケースがあります。

女性も症状が出ないケースがありますが、感染した場合は50〜70%が膣炎をおこして、泡立ったように見える臭いのきついおりものが出ます。膣や外陰部に痒みや痛みが出ることもあります。

トリコモナス症の治療は、メトロニダゾール(商品名:フラジール)またはチニダゾール(商品名もチニダゾール)などの抗原虫薬を1日2回、10日間続けて内服します。

女性の治療を行う場合は、メトロニダゾールの膣剤(商品名:フラジール膣錠)を使用することも多いです。治療期間は内服薬と同じく10日間です。ただし、膣錠の用法は1日1回でOKです。

クラミジアとは

クラミジアまたは性器クラミジアは、クラミジア菌の感染による性感染症です。日本ではもっとも報告数が多い性病です。ただし感染しても強い症状はなく、感染に気づかないケースが多くあります。

感染に気づかない潜在患者を含めると年間100万人以上が感染していると推定されています。もっとも患者数が多い20代前半の女性では10人に1人が感染しているとする推定もあります。

クラミジアは男女とも感染しても症状が出ないケースが半数以上ありますが、症状が出る場合は、感染から1〜3週間以内に症状が出ます。主には痛みですが、症状は女性と男性で異なります。

女性の場合、子宮の入り口である子宮頸管に炎症を起こしておりものが増える、不正出血する、下腹部が痛む、性交時に痛みがあるなどの症状が出ます。症状の程度は軽いものがほとんどです。

ただし症状の有無にかかわらず、放置すると卵管炎をおこして不妊症になることがありますので、気になる症状がある場合や感染が疑われる場合は、すみやかに医療機関を受診してください。

男性の場合、おもに尿道に感染し、排尿時の痛み、尿道の痒み、尿道から膿がでるなどの症状があります。放置すると精巣上体炎や前立腺炎に進行することがあるため、医療機関の受診をおすすめします。

クラミジアの検査は女性の場合、子宮頸管の分泌物を採取して検査します。一方男性の場合は、出はじめの尿(初尿)をとって検査するのが一般的です。

クラミジアの治療は、クラミジアに有効な抗生物質であるアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)・クラリス(クラリスロマイシン)・クラビット(クラリスロマイシン)・ミノマイシン(ミノサイクリン)などの内服です。服用期間は1〜3週間であり、パートナーと同時に治療することが重要です。

性器ヘルペスとは

性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)に感染することで発症する性病であり、性器のまわりに水泡ができます。口唇ヘルペスは単純ヘルペスウイルスⅠ型なのに対し、性器ヘルペスは単純ヘルペスウィルⅡ型によって引き起こされます。

性器ヘルペスの大きな特徴は、いったん症状がおさまっても免疫が弱ったときなどに再発することであり、報告数はもっとも患者数が多いクラミジアの3割強で、淋病の患者数とほぼ同じくらいになっています。

性器ヘルペスは感染から2~10日の潜伏期間の後に発症し、男性では性器の周辺とくに陰茎にヒリヒリした痛みをともなって、小さな水泡ができます。水泡は数日すると破れて潰瘍になります。

女性の場合、性器の周辺とくに大陰唇や小陰唇に小さな水ぶくれや潰瘍(ただれ)ができてヒリヒリした痛みを伴います。症状は2週間くらいで自然に治まることが多いですが、免疫力が落ちたときや月経などをきっかけに再発します。

また性器ヘルペスは男性も女性も初感染のときに症状が重いという特徴があります。鼠蹊部のリンパ腺が腫れたり、発熱や頭痛といった症状が初感染時はあることが多いので注意してください。

性器ヘルペスの治療は、抗ヘルペスウイルス薬の外用薬(アラセナ軟膏、ゾビラックス軟膏)や内服薬(バルトレックス、ゾビラックス)を使用します。両方を併用することもあります。

淋病とは

淋病は淋菌という細菌に感染することでおきる性病です。淋病の特徴は、男性には強い症状が出るが、女性はほとんど無症状だということです。そのため報告数は、男性が6,906人、女性が1,793人となっていますが、感染に気づかない潜在患者がかなり多いと推測されています。

ただし、症状がなくても放置すると将来不妊症になったり、子宮外妊娠をおこすリスクが高くなるので注意が必要です。年代別の感染者では、男性も女性も20代前半がもっとも多く、次いで20代後半が多い傾向があります。

男性は淋菌に感染すると、1日あるいは数日の潜伏期間を経て、尿道から大量の膿が出る・排尿時の激しい痛みなどの症状が出ます。精巣上体の腫れや発熱があることもあります。

女性は感染しても約8割は無症状ですが、症状が出る場合は、おりものが増える・不正出血がある・下腹部が痛むなどの症状が出ます。症状がない場合も、治療せずに放置すると子宮や卵管に炎症が進み、不妊症になることがあります。

淋病の検査は、女性の場合は子宮頸管(子宮の入り口)の分泌物を採取して検査します。男性の場合は出はじめの尿(初尿)をとって検査します。男性が検査の結果が陽性なら、パートナーも症状がなくても検査を受ける必要があります。

淋病は、抗生物質の注射あるいは内服で治療します。よく使われるのはアジスロマイシン(商品名:ジスロマック)、ミノサイクリン(商品名:ミノマイシン)、アモキ(商品名:サワシリン)などですが抗生物質に耐性を持つ淋菌が増えているので、薬の選択には注意が必要です。

また、女性は淋病とクラミジアを併発しているケースが多いので、同時に検査を行い必要であれば治療します。治療期間は薬や症状によって異なりますが、通常1〜3週間ほどかかります。

尖圭コンジローマとは

尖圭コンジローマは、性器にピンク色のイボ(腫瘍)ができる性病です。イボは良性の腫瘍でがんではありません。痛みはありませんが、放置するとイボが大きくなり、数も増えます。

尖圭(せんけい)とは鶏のとさかという意味で、大きくなると形や色が鶏のとさかに似ていることからついた病名です。尖圭コンジローマの病原菌は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスで、治療して症状がおさまっても、免疫力が落ちたときなどに再発することがあります。

全国での1年間の報告数は5万人前後と推定され、年代別では20代がもっとも多くなっていますが、尖圭コンジローマは30代の報告数も20代に近いほど多いのが特徴です。

尖圭コンジローマは感染してから発症するまでの潜伏期間が3週間〜8カ月とまちまちなのが特徴です。潜伏期間が長いといつ感染したか分らないことも少なくありません。

男性も女性も性器や肛門の近くにピンクまたは赤茶色のイボができます。腫瘍は最初は1〜3mmですが、放置すると1〜2cm位に大きくなることがあります。男性はおもに陰茎に、女性はおもに小陰唇と大陰唇にできます。

尖圭コンジローマの治療は液体窒素による冷凍療法、電気メスなどでの外科手術、抗ウイルス薬の外用薬(イミキミド:商品名アルダラクリーム)の塗布などの組み合わせで行われます。

イキミモドは効き目が強いので、適切に使用しなければ周囲の皮膚をただれさせてしまいます。患部だけに塗り、塗った後は手を洗い、翌朝はシャワーでよく薬を洗い流す必要があります。

梅毒とは

梅毒は性行為でトレポネーマという細菌に感染することで発病します。昔は花柳病と呼ばれて、淋病とともに性病の代表でしたが、1940年代に抗生物質による治療が行われるようになり患者数はいっきに少なくなりました。

しかし近年は出会い系SNSやマッチングアプリの影響により、爆発的に梅毒の患者数が増加していると報道がありました。通常ではあまり交流のない不特定多数の異性との性行為が増えると、性病は増加するのは当然です。

梅毒は年々減少していた感染者数が急激に増加したのでニュースになりましたが、他の性病が増加している背景にはこのような環境が影響していると考えられます。

梅毒は10年くらいの長い期間でしだいに症状が進行する病気です。症状は第1期から第4期に分けられています。できるだけ早い段階から治療を開始することが重要です。

  • 第1期、感染後3週目くらいから豆粒程度のしこりができます。男性は陰茎に、女性は小陰唇や大陰唇にできます。痛みはなく、症状は2〜3週間で自然になくなるので、完治したと勘違いする人が多いです。
  • 第2期、感染後3ケ月くらいからピンク色のあざが顔や身体にできます。痛みはなく、症状はやはり2〜3週間で自然になくなります。この段階でも皮膚疾患と勘違いして気づかない人がいるので必ず医療機関を受診するようにしてください。
  • 第3期、感染後3年くらいから皮下組織にゴム種と呼ばれるしこりができます。ゴム種によって鼻の軟骨組織が壊れるケースが多く、俗に梅毒で鼻が欠けるといわれるのはこの現象です。
  • 第4期、感染後10年くらいから神経が侵されて、進行性マヒや痴呆など生命に関わる症状が出ます。昔は遊女などが成人前に感染し、成人後に梅毒で亡くなるケースが非常に多かったそうです。

梅毒の治療はペニシリン系抗生物質のアモキシシリン(商品名:サワシリン)やアモキシシリン+クラブラン酸(商品名:オーグメンチン)の内服薬で治療します。服用期間は第1期では2〜4週間、第2期では4〜8週間くらいです。

カンジダ症とは

カンジダ症はカビの1種のカンジダ菌がひきおこす病気で、厳密に言えば性病ではありません。カンジダ菌は皮膚や膣の周辺に常にある菌で、免疫力が弱ったときなどに発症します。

カンジダ症を発症するのはほとんどが女性で、デリケートゾーンの痒みの原因となっているケースも少なくありません。男性は真性包茎の場合や免疫抑制剤を使用しているときに発症する例がある程度です。

女性には非常にポピュラーな病気で、5人に1人は発症した経験があるといわれています。免疫力が下がったときや抗生物質を服用して膣内の常在菌のバランスが変わったときなどによく発症します。

カンジダ症の症状は、外陰部や膣に強い痒みがあり、ヒリヒリした痛みをともなうこともあります。カッテージチーズのような白いおりものがあるのもカンジダ症の特徴です。

カンジダ症の治療には、抗真菌薬フルコナゾール(商品名:ジフルカン)の内服薬または、抗真菌薬テルビナフィン(商品名:ラミシール軟膏)を使用することが多く、2つを併用することもあります。膣剤を使うこともあります。

HIV(エイズ)とは

HIV(エイズ)は、感染者数は少ないですが致命的な性病であり、感染すると免疫力が低下するため一生薬を飲み続けないといけません。性的感染による患者のほとんどは男性ですが、母子感染や血液感染することもあります。

Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)は、人の免疫細胞へ感染するとウイルスでエイズに感染すると免疫力が低下し、通常であれば感染しなかったり重症化しない疾患でも死に至る病になりえます。

HIV感染後は、感染初期(急性期)→無症候期→発症期と経過していきます。感染初期には、HIVは免疫系の中心となるTリンパ球などに感染し増殖します。このとき、発熱などの症状がみられることもありますが、数週間で消失します。

次に無症候期に入り、HIVが体内で増殖し免疫細胞が死滅していくことで徐々に免疫力が低下していきます。無症候期は数年〜10年以上続く人もいれば、短期間で発症期になる人もいます。

そして発症期に至ると日頃かかることのない様々な病気にかかりやすくなり、命に関わります。現在は進行を抑制する治療薬がありますが、完治に至ることはほとんどありませんので、できる限り早い段階で治療を開始することが重要です。