精神病とは|うつ病・パニック障害・社会不安障害|原因・治療法
目次
精神病とは
精神病は、正しくは精神障害や精神疾患と言い、主に精神科領域で治療される疾患をさします。精神病には多くの種類がありますが、日本人に多い主な精神病は次の3つです。
1.気分障害
気分がハイになったり落ち込んだりする疾患で、うつ病と双極性障害などの精神障害が有名です。また、うつ病に似た症状がある非定型うつ病や、冬に症状が出る冬季うつ病も気分障害の1つです。
2.不安障害
不安や緊張が高まる疾患で、強迫性障害・パニック障害・社交不安障害などの精神障害があります。状況や環境に左右されやすい精神疾患なので、自分だけでなく周囲のサポートが必要不可欠です。
3.統合障害
脳のさまざまな働きをまとめることができなくなる障害で、他人が自分の悪口を言っている・テレビやネットが自分の情報を流しているなどの妄想や幻覚が生じる精神疾患で、統合失調症などが当てはまります。
その他
他にも、ストレスが原因で身体症状が出る心身症や脳の障害が原因でおきる自閉症、過去の衝撃的な体験によっておきる外傷後ストレス障害(PTSD)などさまざまな精神病があります。
精神病は、脳内の神経伝達物質のバランス異常が原因と考えられていますが、それだけでは説明できず、生まれつきの気質と環境が影響しているとも考えられており、詳しい原因や発症のメカニズムは分っていないものがほとんどです。
精神病の治療
精神病の治療には、脳の神経伝達物質のバランスを整える薬物療法と心理療法(カウンセリングや認知行動療法など)があり、そのどちらかあるいは両方が並行して行なわれます。
薬物療法では、抗うつ剤・抗精神病薬(メジャートランキライザー)・気分安定剤・抗不安薬などが使われます。不眠症を併発していることも多いので、睡眠薬が処方されることもよくあります。
心理療法には、対話によるカウンセリングと、カウンセリングと併せて行なう認知行動療法があります。認知行動療法は、自分の考え方のクセ(自動思考)に気づいて、それを修正していく治療法です。
一般に精神病の治療はある程度の期間がかかり、適切で辛抱づよい治療が必要です。もちろん家族や周囲の理解とサポートも重要であり、症状が落ち着いても治療を継続する必要があります。
うつ病とは
気分障害の中でもっとも多いのがうつ病です。うつ病の原因は完全には分っていませんが、性格が原因ではなく誰でもうつ病になる可能性があります。過労や精神的なストレスがきっかけで発症することが多い疾患です。
うつ病では、脳内神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが不足して、それが気分の落ちこみをひき起こすと考えられており、朝に気分の落ち込みが強いのが特徴です。多くの場合、不眠の症状も出ます。
具体的には、学校や会社に行く気力がでない・今まで熱心だった趣味に興味が持てなくなる・口数が減る・集中力がなくなる・性欲がなくなる・自己否定的な気持ちになる…そして自殺したいと思うなどです。
うつ病は放置すると重症化し、自殺などのリスクも高まるので、早期に治療を始めることが重要です。まず症状を改善するために薬物療法が中心になりますが、ある程度改善されたらカウンセリングを並行して行うことが一般的です。
うつ病の治療薬として、現在主流となっているのはSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)です。従来の三・四環系抗うつ薬と比較すると、副作用が少なくコントロールしやすいからです。
ただしSSRIやSNRIは、脳内のセロトニンやノルアドレナリンの量を少しずつ増やしていく薬なので、服用を始めてから効果が現れるまでに2〜3週間かかります。そのため急性期には三・四環系抗うつ薬を使用される専門医もいらっしゃいます。
抗うつ剤は、急に薬の服用を中止すると離脱症状という強い副作用がでるので、中止するときは徐々に薬の量を減らして行く必要があります。よくある離脱症状は、めまい・頭痛・吐き気・耳鳴りなどです。
服用中の副作用としては、眠気・口渇・便秘などがあります。選択性の高い医薬品であるSSRIやSNRIはこれらの副作用が少ないですが、完全になくなったわけではありませんので注意は必要です。
うつ病は心の風邪などと言われることがありますが、軽視すると重大な結果を招くことがあるので、早期に治療を始めることが重要です。治療には休養が必要であり、家族や会社の同僚など周囲のサポートが必要です。
非定型うつ病とは
非定型うつ病は、若い女性に多い気分障害です。定型的なうつ病とは違う症状があることから非定型と呼ばれています。必ずというわけではありませんが、好きなことは一生懸命やりますし、ハイになったりすることもあるので、身勝手とか気分屋と誤解されることも少なくありません。
また非定型うつ病に特有の症状として「鉛様麻痺」があります。手足がだるく、鉛のように重たくなり、起き上がることもつらくなる症状です。精神科以外の病院で身体症状だけを訴える場合も多く、非定型うつ病が見逃されることもあります。
非定型うつ病の治療は、基本的にはうつ病と変わりません。重症化するとうつ病と同じで重大な結果を招くことがあるので、軽く考えることはできません。薬物療法に加え、カウンセリングや物事に対する考え方を修正する認知行動療法も行います。
日常生活では、食べすぎや睡眠不足あるいは寝過ぎに注意して、規則正しい生活を送ることがよいとされます。食生活では、糖分の摂りすぎに注意して、バランスの良い食事を心がけるとよいです。
過労は禁物で休養は重要ですが、行けるときは会社や学校を休まないようにして、なるべく生活のパターンをくずさないことが大切です。またうつ病では周囲から「ガンバレ」と声をかけるのはタブーとされていますが、非定型うつ病の場合はある程度の励ましが有効と考えられています。
双極性障害(躁うつ病)とは
双極性障害は気分が落ち込む「うつ状態」と、異常に気分が高揚する「躁状態」が交互に繰り返される病気です。気分の上下が激しいのが特徴であり、以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。
うつ状態の症状は、うつ病の症状と似ており、気分が落ち込んで、物事に興味や喜びを感じることができなくなります。不眠や食欲不振、集中力の低下などが生じて、自責感情が強くなり、自殺願望が起きることもあります。
躁状態のときは、反対に寝ないで活動するくらい元気でおしゃべりになります。しかし、このハイテンションは、人間関係をこわしたり、大きな借金をするなど、どこか常軌を逸するところがあります。家族にも大きな迷惑をかけがちです。
双極性障害ではおもに「気分安定薬」という薬で治療します。脳神経の電気信号の電位差を安定させる作用がある薬で、うつ状態のときも躁状態のときも有効ですが、血中濃度のコントロールが重要であり、服用中は定期的な血液検査が必要です。
躁状態のときは病気の自覚がないことが多く、双極性障害で病院を訪れる患者はうつ状態のときがほとんどなので、うつ病と誤診されるケースが少なくありません。しかし、抗うつ剤を服用すると病状が悪化することがあるので、専門医の診察を受けることが重要です。
パニック障害とは
パニック障害は、突然激しい動悸やめまいなどの発作がおこるのが特徴です。原因が分らない場合は、患者に強い恐怖感を与えてパニックにおちいらせるので「パニック発作」と呼ばれています。
パニック障害のくわしい原因は分かっていませんが、心の中にあるトラウマなどのトリガーなど心理的要素と、脳内神経伝達物質セロトニンの不足などの身体的な要素の両方が関係していると考えられています。
パニック発作は動悸やめまいのほかに、呼吸困難、激しい発汗、手足の震え、吐き気などの症状があります。初めの何回かの発作では、患者は死の危険を感じるほどの強いショックを受けると言われます。
どんな状況で発作がおこるかは人によって違いますが、何かが起きたときに逃げ場所がないというような状況(ドアの開閉が少ない快速電車や高速道路の車の中など)でおこりやすいと考えられています。
そしてまた発作がおこるのではないかという予期不安や、以前発作をおこした場所に行くことへの広場恐怖が特徴であり、電車の中で発作をおこしたことがある人は、電車に乗るとパニック発作がおこりやすいと考えられています。
パニック障害の治療には薬物療法と心理療法があります。薬物療法では、抗不安薬や抗うつ剤が使われます。心理療法には、認知行動療法やあえて広場恐怖をおこした場所に近づいて、少しずつ恐怖を小さくしていく暴露療法があります。
社交不安性障害(あがり症)とは
社交不安障害は、人前に出ると強い緊張や不安を感じて、普通の行動ができなくなる病気です。社交不安性障害は日本人に多い精神病であり、あがり症はその軽症のケースです。
人前で何かをするときに、赤面する・声が震える・手足が震える・大量の汗をかく・手が震えて字が書けない・電話に出るのが怖い・応対がうまくできない・動悸や腹痛または尿意などがおきるなどの症状が出ることもあります。
そして、また同じ症状が出るのではないかという予期不安を抱くようになり、人前にでるのが怖くなります。社交不安障害が悪化すると、会社や学校に行けなくなり、うつ病を併発することもあります。
社交不安障害の治療には、薬物療法と心理療法があります。薬物療法は、脳内神経伝達物質セロトニンの濃度を高める抗うつ剤と人前に出るときに服用する抗不安薬(精神安定剤)を併用します。
軽度の社交性障害とも言えるあがり症の場合は、心拍数を安定させるインデラルという薬を使うこともあります。スピーチなどの前に飲んでおくことで、本番であがってしまうのを予防します。
心理療法は、認知行動療法が中心になります。これは、人前で緊張や恐怖を感じる自分の感じ方や考え方のクセ(自動思考)を修正していく療法で、森田療法などが有名です。
強迫性障害とは
強迫性障害は「ドアの鍵かけ忘れたかも」とか「ガスの火を消したかな?」など誰にでもある不安が異常に強い病気です。強迫というのは脅迫ではなく、無意味と分かっていてもせずにはいられない心理のことです。
症状には、戸締りなどの確認に何回も家に戻る過剰な確認行動・不潔なものに触ったと思い執拗に手も洗う不潔恐怖・何かをするときの自分で決めた手順を過剰に守ろうとする過剰な儀式行為などがあり、日常生活に影響を及ぼすこともあります。
強迫性障害の治療は、薬物療法と心理療法を並行して行なわれます。薬物療法ではうつ病のときよりも高用量のSSRIを服用するのが一般的です。心理療法では、認知行動療法により、何かにこだわる自分の考え方(自動思考)を見直して、物の見方や感じ方のかたよりを修正していきます。
統合失調症とは
統合失調症は、昔は精神分裂病と言われた病気であり、思春期に発病することが多く原因は完全には解明されていません。脳の情報伝達の不調によって現実と意識にずれが生じる病気だといわれており、発症には遺伝的な要素が関係しています。
統合失調症の症状は、陽性症状と陰性症状を繰り返します。陽性症状には、誰かが自分の悪口を言っている(幻聴)テレビで自分のことが話されている(妄想)自分に危害を加えようとしている人がいる(被害妄想)があります。
陰性症状には、喜怒哀楽の感情起伏がなくなり周囲に対する関心が薄れる(無関心)
行動する意欲がなくなり着替えや入浴なども家族に促がされないとしない(無気力)
人とコミュニケーションがまともに取れないなどがあります。
統合失調症の治療は、抗精神病薬による薬物治療が中心になりますが、平行して生活訓練などをする「精神科リハビリテーション」を行なうこともあります。症状によっては、入院して治療を行なう必要もあります。
抗精神病薬は、脳内神経伝達物質のドパミンの過剰分泌を抑制する薬がおもにつかわれます。中でも陽性症状にも陰性症状にも効果がある非定型抗精神病薬に分類されるリスパダールがよく使用されます。
統合失調症は症状が長引くと脳にダメージがたまり、徐々に脳が委縮して陽性症状も陰性症状も悪化していくこともあります。病気の自覚がないことが多いので治療の開始が遅れがちですが、家族の協力で少しでも早く治療を始めることが重要です。
摂食障害とは
摂食障害はダイエットがきっかけで発症することが多い精神障害で、患者のほとんどが10代から20代の若い女性です。拒食症と過食症の症状は正反対のようですが、どちらも自分は太っているという事実とは異なる自己認識があるという点では共通している摂食障害です。
摂食障害は厚生労働省が難治性疾患にしており、なかなか治りにくい病気で重症化すると患者の将来に大きな影響を与えます。そして治療には家族の理解とサポートが欠かせない病気でもあります。
摂食障害になるきっかけの多くは過剰なダイエットですが、他人から見ると太っているとは言えない体型でも「もっとやせなくては」と思いこむことでだんだん深みにはまっていきます。
この思い込みの根底には、好きな男性からデブと言われたなどの精神的トラウマがあることが少なくありません。また容姿に対するコンプレックスが強い人がダイエットにはまったときになりやすい病気といわれています。
子どものときの家庭環境などで、自尊心が育たなかった人がなりやすいという傾向もあります。幼少期に母親から十分に愛情を注いでもらわなかった場合に、他人の見る目や非難に抵抗できる自尊心が不足することがあるといわれます。
拒食症は、食べると太るという恐怖感があり、食べることに強い罪悪感を抱く症状です。客観的にはやせ過ぎの状態でも、まだ太っているという思い込みがあるのでダイエットを止めることができません。
症状が進むと、栄養失調で月経がなくなるなど身体へのダメージが重なることもあります。長期に渡ると、食べようと思っても消化器が弱っており身体が食物を受け付けないこともあります。
過食症は、ダイエットや仕事のストレスと反動でドカ食いにはしるケースが多く見られます。過食症になると食欲がコントロールできず、目の前の食べ物を全部食べるまで食事を終えられなくなります。
その後は、食べすぎたことに対する後悔と罪悪感から、口に指を入れるなどで食べたものを無理やり吐いてしまいます。下剤を乱用する場合もあります。過食と嘔吐をくり返すのが過食症の典型的な症状です。
これらの摂食障害の治療は、薬物療法と心理療法を並行して行なわれます。摂食障害には「自分は太っている」という事実とはことなる自己認識があることが多いので、薬物療法だけでは治療は成功しにくいからです。
薬物療法では、摂食障害の根底にある不安を軽くして気持ちを落ちつかせるため、抗うつ剤や抗不安薬を使用することが多いですが、夜中に過食する症状がある場合は、睡眠薬を使用することもあります。
心理療法は、カウンセリングや認知行動療法などで拒食や過食に走った心の底にあるものに照明を与えて、症状を改善していきます。自分は太っているという間違った認識(思考のゆがみ)を修正していきます。
まとめ
精神病は本人の気分の問題ではなく、脳内の神経伝達物質バランス・今までの人生におけるトラウマ・過酷な環境や人間関係などが複雑に関連しておこる疾患であり、放置していても完治することはほとんどありません。
まだ未知の部分も多い精神疾患ですが、適切な治療・適切な環境・周囲のサポートをすることで最悪のケースをまず防ぎ、時間をかければゆっくりとですが改善することが見込めます。一人で悩まず、まずは相談することが大切です。



















