胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎とは|症状・原因・治療法

目次

胃痛について

胃痛とは、一般的にみぞおちの辺りに痛みがあらわれることを指します。原因は、胃炎などの場合もありますが、胃・十二指腸潰瘍やヘリコバクター・ピロリ感染症、胃がんなどの重大な病気がひそんでいる可能性も否定できません。

他にも以前は神経性胃炎や慢性胃炎とされていましたが「機能性ディスペプシア」という、検査をしても異常のない胃痛の患者さんもおり、日本でも10人に1人の割合で存在するといわれています。

このように胃痛の原因となる疾患はさまざまですが、胃酸の出すぎや消化管運動機能の異常、精神的なストレスなどがそれらの疾患を引き起こす要因となっています。また、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)などの医薬品が胃痛を引きおこすこともあります。

他にタバコも胃痛の原因になります。胃は胃酸による攻撃因子と粘膜による防御因子のバランスが重要になっています。喫煙により粘膜への酸素供給が減ることで、胃粘膜が減少し胃酸によるダメージを胃が受けやすくなります。

胃痛があるときの生活習慣

胃痛があるときは、食べ物の消化にかかわる胃に病変部がある可能性が高いため、食事には特に気を付けなくてはなりません。消化の良いやわらかい食事を少量ずつ、数回に分けて摂ることが推奨されています。

ミルクやバニラのアイスクリームは胃酸を中和し食べやすいのでおすすめですが、糖質の過剰摂取や胃が冷える原因ともなるので食べ過ぎは厳禁です。胃を温めるおかゆやうどんなどが主食としておすすめできます。

またアルコールやトウガラシなどの刺激物や、コーヒーなどのカフェインを含む飲みもの、タバコは胃痛の改善を遅らせるだけでなく、胃炎や十二指腸炎の原因になることもあるので、少なくとも胃痛の治療中には控えるようにしましょう。

胃痛におすすめの病院

胸やけや食べ物の逆流、痛みなどの症状があらわれた場合には、胃潰瘍や逆流性食道炎を疑うことが必要です。自分では正確な診断をおこなうことはできないので、専門医を受診するようにしましょう。

病院を探す際には、消化器科や胃腸科などにかかることがおすすめです。胃潰瘍や逆流性食道炎の正確な診断をおこなうためには、医師の問診に加えて、内視鏡によるカメラの検査が必要となることもあります。

風邪などを診ている一般的な内科では、このような設備は整っていないことが多いので、胃の症状が明らかである場合には専門医を受診した方が良いです。

病院ではどのような治療が行われる?

いますぐ手術が必要なケース以外の胃炎や胃潰瘍、逆流性食道炎がある場合には、薬物療法が中心となります。胃酸の分泌をおさえる薬である、プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーが第一選択薬として使用されることが多いです。

その補助として胃粘膜を保護する薬や安中散や六君子湯などの漢方薬、胃腸の機能を改善する薬が使用されており、空腹時に痛みがある場合は皮膜保護薬などが選択されることもあります。

ヘリコバクター・ピロリに感染していると胃カメラによる検査で確認できた場合は、ボノサップなどによるヘリコバクター・ピロリの除菌療法がおこなわれます。胃カメラをせずに保険適用で除菌療法を行うことはできません。

胃炎・胃潰瘍とは

胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎は、どれも胃酸によって胃や食堂の内壁がダメージを受ける疾患です。胃炎や食道炎は内壁が傷ついている状態、潰瘍は深くまでダメージが進んだ状態、最終的に貫通して穴が空いてしまうと穿孔(せんこう)と呼ばれます。

胃酸はph1〜2という強い酸ですが、普段は胃粘膜がバリア層となって胃酸から胃壁を守っています。しかし何らかの原因で胃酸が過剰になったり、胃粘膜が薄くなったりすると、胃壁が強い酸に侵されて、炎症や潰瘍が生じます。

胃炎・胃潰瘍の症状

胃炎の特徴的な症状は、みぞおちの痛みです。食べすぎや強いストレスで胃酸が多く分泌されると急性胃炎になりみぞおちのあたりが痛くなりますが、日常的にこれが繰り返されるのが慢性胃炎で、胃潰瘍に進行するおそれがあります。

慢性胃炎の症状は、みぞおちの痛みのほかに、胃もたれ、腹部膨満感、胸やけ、ゲップなどがあります。胃潰瘍の症状も、みぞおちの痛みが特徴ですが、胸やけが強くなり吐き気や嘔吐もひんぱんに出ます。

潰瘍が進むと胃から出血するので、吐血したり、便に血が混じって便の色が黒っぽくなることがあります。この段階まで進行すると腰や背中など胃以外の痛みを感じることもあります。

また潰瘍の場所や年齢によって症状が変わりますが、あまり痛みを感じないこともあります。少し胸のみぞおちが痛み、食べ物を食べたり胃薬を飲むことで軽減される。灼熱感やさしこむ痛み、お腹が空いた感じがするなどの場合でも注意が必要です。

胃からの出血と便の色

胃潰瘍が悪化して胃からの出血がある場合には、タール便や吐血、貧血などの症状があらわれることもあります。タール便とは黒いねっとりとした便で、コールタールに似ているためこのような名称がついています。

血液は本来は赤色ですが、胃でおこった出血が肛門まで送られる間に、血液中のヘモグロビンが胃液や腸内細菌の作用を受けて酸化され、黒褐色となります。そのため便の色が黒色であるほど上部消化管の出血の可能性が高いのです。

逆に鮮血がついているような赤い便の場合は、直腸や大腸など肛門付近の消化管に異常が起きている可能性が高いと考えることができます。医療機関に受診する前に便の色は見ておきましょう。

胃炎・胃潰瘍の原因

胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎の原因は胃酸過多、あるいは胃酸から胃を守る胃粘膜が薄くなることです。胃酸過多の原因となるのが、食べすぎ(とくに脂っこいものの食べすぎ)とストレスです。

またロキソニンやアスピリンなどの解熱鎮痛剤も、胃粘膜を減少させてしまう原因になります。頭痛や生理痛で鎮痛剤を飲む機会が多い人は特に注意が必要です。またアルコールやタバコも胃粘膜を減少させる原因になります。

他に胃粘膜が薄くなり、胃壁を保護する力が弱くなる原因にヘリコバクター・ピロリがあります。ヘリコバクター・ピロリに感染すると、分泌物であるアンモニアなどが胃粘膜を傷つけ、胃酸への抵抗力が弱くなります。

またヘリコバクター・ピロリの繁殖が、胃酸の分泌を促進するガストリンというホルモンを増やすことも分っています。そのためヘリコバクター・ピロリは早期に除菌するほうがよいと考えられています。

ヘリコバクター・ピロリとは

ヘリコバクター・ピロリは、胃酸の中でも生存することができる病原菌で、幼少期の生水の摂取や口を介した感染をする感染症です。上下水道が完備されてからは感染数が激減しましたが、それ以前は80%以上の人が感染していました。

ヘリコバクター・ピロリが胃酸の中でも生存できるのはウレアーゼという酵素を産生することができるからで、自分の周りにアルカリ性のアンモニアを産生することで胃酸を中和しています。そのため感染した方は口からアンモニア臭がすることがあります。

ヘリコバクター・ピロリの問題点はそれだけではなく、胃潰瘍を発症しやすくなったり、胃がんを発症する可能性が3〜6倍高くなるということが報告されています。これはヘリコバクター・ピロリが胃に住み着くことで粘膜が萎縮し、炎症を引き起こす原因となるからと考えられています。

ヘリコバクター・ピロリの除菌

ヘリコバクター・ピロリの除菌にはプロトンポンプ阻害薬と2種類の抗生物質(サワシリンとクラリス)を7日間服用します。これらがセットになったボノサップなどの除菌セットも販売されています。 

除菌率は90%以上と高いですが、失敗すると2次・3次除菌になるにつれて成功率は下がります。また3次除菌以降は、保険適用ではなく自費治療となるので、できる限り1次除菌で終わらせるべきです。

服用中は下痢などの副作用が出ることもありますが、軽度であれば除菌を優先し、ひどい場合や下血などを伴う場合は服用を中止して、すみやかに医療機関を受診するようにしてください。

ヘリコバクター・ピロリと逆流性食道炎の関係

ヘリコバクター・ピロリに感染している方は、逆流性食道炎を発症していることが少ないことが知られています。理由として、ヘリコバクター・ピロリに感染すると胃酸の分泌量が減少します。

結果、胃酸が減るため逆流性食道炎を発症しにくい特徴があります。しかし、ヘリコバクター・ピロリは放置すると胃潰瘍になるリスクが高まり、胃がんになる可能性が高くなります。

ヘリコバクター・ピロリは井戸水などに存在しています。昔はその井戸水などを飲んでいたため、ヘリコバクター・ピロリに感染していましたが、日本の公衆衛生が向上してきたので感染する人が減っています。

これにより逆流性食道炎を発症する方が増えたという声もありますが、近年の研究では、ヘリコバクター・ピロリの除菌による逆流性食道炎はあくまでも一時的なものであることが報告されています。

逆流性食道炎とは

胃に隣接する臓器である食道へ胃酸が逆流しないよう、食道との間には噴門という弁のようなものがありますが、食道には胃酸から組織を守る仕組みがないので、胃酸が日常的に逆流すると炎症を起こします。これが逆流性食道炎です。

逆流性食道炎の症状は、強い胸やけと、喉や口に酸っぱいもの(胃液)がこみ上げてくる呑酸(どんさん)です。特に食べてすぐ横になったときに、このような症状が現れます。

食道だけでなく喉も胃酸が逆流して炎症をおこすと、声がかすれたり咳が止まらなくなどの症状も出ます。そうして胃酸の逆流をくり返していると、胃がんや食道がんのリスクも高くなります。

粘膜がただれて「びらん」とよばれる症状を引きおこすだけでなく、粘膜や組織の一部が障害される「潰瘍」につながることもあり、放置してしまうと食道の粘膜が胃の粘膜に置き換わる「バレット食道」という病気にもつながります。

また、胃酸の逆流がぜんそくの原因になることもあります。喉の奥で食道と気道は枝分かれしているので、喉まで胃酸が上がってきているならば、気道にも影響が出ることが考えられます。

逆流性食道炎の原因

流性食道炎の原因は、食べすぎ、肥満による腹圧の上昇、加齢によって食道と胃を仕切っている筋肉(下部食道括約筋)が弱ることなどが原因です。食べてすぐ横になるのも、胃酸が逆流する原因になります。

もともと日本人には少ない病気でしたが、食生活の変化によって、最近では患者さんの数が増えつつあります。この逆流性食道炎は放置すると、食道裂孔ヘルニアという疾患を合併するリスクが高まる恐れがあります。

食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部が食道裂孔から胸の方に突出してしまっている病気です。このようなリスクを回避するためにも、早期から逆流性食道炎を治療することをおすすめします。

胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎の治療薬

胃・十二指腸の治療薬は「胃酸の分泌をおさえる薬」と「胃の粘膜を保護する薬」そして「胃腸の動きを整える薬」の3つに大別されます。ヘリコバクター・ピロリの場合は抗生物質も使用します。

胃酸をおさえる薬には、ガスター(ファモチジン)やプロテカジン(ラフチジン)などのH2ブロッカーと、ネキシウム(エソメプラゾール)やタケプロン(ランソプラゾール)などのプロトンポンプ阻害薬があります。

H2ブロッカーよりもプロトンポンプ阻害薬の方が胃酸抑制作用は強いと考えられていますが、症状や病態によって使い分けられています。現状は、プロトンポンプ阻害薬が医療機関の主流です。

胃の粘膜を保護する薬には、ムコスタ(レバミピド)やセルベックス(テプレノン)などのプロスタグランジン関連薬と、アルサルミン(スクラルファート)などの皮膜保護薬があります。

プロスタグランジン関連薬が医療機関では主流で使用されており、市販薬としても販売されています。胃粘膜を増加させ、胃の保護機能を高めてくれます。痛み止めの副作用防止としてもよく使用されます。

一方、皮膜保護薬はそれほど使用頻度は高くありませんが、空腹時に服用することで胃や十二指腸の潰瘍部のタンパク質と結合し皮膜を形成します。胃の中に絆創膏を貼るイメージなので、即効性が高いというメリットがあります。

胃腸の動きを整える薬には、胃腸機能調整薬のガスモチン(モサプリド)や機能性ディスペプシア治療薬のアコファイド(アコチアミド)などが分類されます。炎症や潰瘍などがないタイプの胃痛に有効と考えられます。

いままでこういったケースにはなかなか有効な医薬品がなく、六君子湯などの漢方薬やドグマチール(スルピリド)などの神経関連の医薬品が使用されてきましたが、アコファイドのような薬が新しく出てきたことは非常に喜ばしいです。

胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎を改善する生活習慣

胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎を改善するには、食べすぎないことと、なるべくストレスのない暮らしをすることが大切です。食生活で胃酸過多を起こしやすいのは、過食と脂濃いものや香辛料がきついものを好んで食べることです。

とくに脂肪を多く含む肉を大量に食べるのは、消化に時間がかかり、それだけ胃酸の分泌も多くなります。また胃酸が食道に逆流しやすいのは、食べすぎと食べてすぐ横になることです。肥満して腹圧が高くなるのも胃酸の逆流の原因になります。

1日3回の食事を規則正しく、バランスよく摂ることで、過剰な胃酸の分泌をおさえることができます。朝食や昼食を抜く1日2回の食事は、1回の食事の量が増えて胃酸過多の原因になります。

また深夜に食事をする習慣は、すぐ横になるので逆流性食道炎を起こす原因になります。睡眠の質も低下してストレス耐性が弱くなり、ストレスの影響を受けやすくなるという面もあります。

コーヒーなどのカフェイン飲料、アルコール、タバコのニコチンも胃酸を増やす原因になります。とくに空腹時にこれらを摂取すると胃酸が過多になりやすいです。またアイスコーヒーはより胃酸の分泌を増やすと言われています。

姿勢や服装にも注意が必要で、日中は前かがみの姿勢を避け、寝るときは上半身を高くすることで胃酸の逆流を防ぐことができます。ベルトやコルセットなどの腹部をしめつける服装も、治療中は避けましょう。

食後3時間くらいは胃酸が逆流しやすい状態となるので、食後すぐに横になったり、寝る直前に食事を摂ることは避けてください。寝たままの体勢で飲食をおこなうこともNGです。

ストレスが胃酸の増加につながることもあるので、過労を避けるようにしましょう。規則正しい生活を心がけ、睡眠を十分にとることも重要です。身体をできる限り休ませてあげましょう。