【抗ウイルス薬】バルトレックスの効果・飲み方・注意点など
目次
バルトレックスとは
抗ウイルス薬の代表格であるバルトレックスは、ヘルペスウイルス感染症に効果的です。フランスの製薬会社であるグラクソ・スミスクラインが開発し、日本では2000年に製造販売が承認されています。ヨーロッパやアメリカをはじめとする世界100カ国以上で承認・販売されており、その高い有効性と安全性から、実績と信頼のある医薬品のひとつとして有名です。
バルトレックスは、国内では錠剤や顆粒剤の剤形で販売されています。ヘルペスウイルスへの感染が原因の性器ヘルペス、単純疱疹や帯状疱疹、水痘(水ぼうそう)に効果があり、使用にあたって医師の処方箋が必要な医療用医薬品に指定されています。
バルトレックスの作用機序
バルトレックスの有効成分であるバラシクロビルはプロドラッグと呼ばれ、体内に吸収された後、薬効を持つ活性化体である別の成分に変化します。プロドラッグは、体内に吸収されにくい薬効成分の改良品を開発する際に使われる製法で、比較的新しい薬剤で採用されています。
アシクロビルという抗ウイルス成分の吸収率を高めるために開発されたのがバルトレックスであり、プロドラッグ化することで腸からの吸収力が高められています。バラシクロビルは体内でアシクロビルに変換され、抗ウイルス作用を発揮します。
ヘルペスウイルスの細胞は、自身のDNAを複製していくことで増殖します。バラシクロビルは、DNAの複製過程において重要な役割を持つDNAポリメラーゼという酵素を阻害することで、ウイルスの増殖を抑制します。そのため、ヘルペスウイルス感染症を発症したら、できるだけ早く抗ウイルス薬を開始することが大切です。ウイルス量が少ないうちに服用すればウイルスの増殖を抑えることができますが、ウイルスが増殖してしまった後の服用では十分な効果が発揮されにくいとされています。
ヘルペスウイルスとは
ウイルスは、細菌や真菌とは異なる微生物で、他の生物に住み着いて増殖するのが特徴です。大きさは細菌や真菌よりも小さく、感染力が強いとされています。
ヘルペスウイルスが感染した皮膚には水ぶくれや赤い腫れが生じ、ピリピリと不快な痛みを伴います。ヒトに感染するヘルペスウイルスは8種類あり、最も感染者が多い口唇ヘルペスや性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルスへの感染によって発症します。また、子どもの間で流行しやすい水疱や、強い痛みを伴う帯状疱疹の原因となるのは水痘・帯状疱疹ウイルスで、これら2種類が代表的なヘルペスウイルスです。
バルトレックスは、単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖を抑制することで、さまざまな皮膚症状を改善します。
バルトレックスの適応症①単純疱疹(口唇ヘルペス、性器ヘルペス)
単純ヘルペスウイルスは、Ⅰ型とⅡ型に分けられます。日本人の70~80%は既にⅠ型に罹患しているというデータもあり、比較的身近なウイルス感染症のひとつです。感染すると口唇ヘルペスや性器ヘルペスを引き起こし、患部周辺に水ぶくれや赤み、痛みといった皮膚症状が現れます。
ウイルスに感染した人との接触や、ウイルスが付着したタオルの共用によっても感染するため、家族やカップル同士で感染が拡がりやすいのが特徴です。大人に感染した場合は、感染後すぐに症状が出る人もいれば、無症状のまま数年経過してからある日突然発症する人もいます。子どもに感染した場合は、ただちに39℃以上の高熱が出るなど、大人よりも重症化するケースが多いとされています。
バルトレックスの適応症②帯状疱疹
帯状疱疹は、水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した後、知覚神経が通る部位に沿って帯状に大量の水ぶくれや発赤が現れる感染症です。口唇ヘルペスや性器ヘルペスといった単純疱疹よりも帯状疱疹の方が重い症状が出やすく、強い痛みを伴います。赤い発疹と共にピリピリとした痛みに襲われ、発疹が水ぶくれになって潰れることで潰瘍になったり、跡が残ったりすることもあります。
帯状疱疹は、ストレスや寝不足などで免疫力が低下したタイミングで発症することが多く、特に50代から発症率が高まります。50代、60代、70代と年代が上がるにつれて発症率がさらに上がり、80歳までに約3人に1人がかかるともいわれている身近な病気です。
無治療の場合は治るまでに3週間~1ヶ月ほどかかりますが、バルトレックスをはじめとする抗ウイルス薬を服用することで、早くて3日、遅くても1週間以内には症状が落ち着くとされています。
バルトレックスの適応症③水疱(水ぼうそう)
水ぼうそうは、発熱の後に赤い発疹が多数生じ、やがて水ぶくれになり、かさぶたとなって治っていくという経過をたどる感染症です。水痘・帯状疱疹ウイルスへの空気感染、飛沫感染、接触感染によって感染が拡大し、潜伏期間は感染から2週間程度とされています。
水ぼうそうは、9歳以下の子どもの発症が90%以上を占めるといわれています。以前は国内で年間100万人程度が発症し入院や死亡例もありましたが、子どもへの定期予防接種が始まり、発症数が激減しています。大人での発症も稀に見られ、大人に発症した場合には子どもよりも重症化するリスクが高いとされているため特に注意が必要です。
バルトレックスの適応症④性器ヘルペスの再発抑制
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス2型への感染によって起こります。主に感染者との性行為によって感染するパターン(接触感染)が多いことから、性病のひとつとして認知されています。
単純ヘルペスウイルスは感染力が強く、一度感染すると症状が治まった後も体内にウイルスが潜伏します。特に性器ヘルペスは、免疫力が低下するなどの要因で、幾度も再発を繰り返すことが知られています。
性器ヘルペスの再発を年に6回以上繰り返す場合には、再発の予防目的でバルトレックスを少量かつ長期間服用するという治療が推奨されており、日本では保険適用もされています。症状の有無に関わらず長期間にわたってバルトレックスを服用することで、体内のウイルス増殖や活動を抑え、性器ヘルペスの再発率を低下させることが可能です。
バルトレックスの使用方法
バルトレックスはいずれの目的の場合においても、年齢や症状や身体の状態によって適宜増減が認められています。また、体重40kg以上の小児は通常成人と同様の用法用量で服用できます。
飲み忘れてしまった場合は、飲み忘れに気がついた時点ですぐに1回分を服用してください。次の服用時間が近い場合は、1回分を飛ばしてください。服用間隔が4~5時間程度あいていれば特に問題はありません。副作用の発現リスクが高まる恐れがあるため、2回分をまとめて服用するのは避けてください。
バルトレックスの錠剤は、一般的な錠剤と比べてサイズが大きめです。特に高齢の方は、錠剤が喉に引っかからないように多めの水で服用したり、ピルカッターなどで無理なく服用できる大きさに分割して服用したりといった対処をおすすめします。
単純疱疹(口唇ヘルペスや性器ヘルペス)の治療1回500mgを1日2回(朝・夕)服用します。
帯状疱疹と水ぼうそうの治療1回1000mgを1日3回服用します。
性器ヘルペスの再発予防1回500mg1錠を1日1回服用します。
バルトレックスは、感染後なるべく早い時期に服用を開始することが推奨されています。目安としては、帯状疱疹の場合は発症後5日以内に、水ぼうそうの場合は発症後2日以内に服用を開始するのが効果的です。食事の影響はほとんど受けませんが、胃への負担を考慮し、食後に服用するのがおすすめです。
バルトレックスの使用期間
ヘルペスウイルスに初めて感染した場合のバルトレックスの服用期間は、単純疱疹の場合はおよそ5日、帯状疱疹や水ぼうそうの場合はおよそ7日~10日とされています。肝臓への負担が大きいため、10日以上の服用は原則的に認められていません。服用開始後5日以上経過しても患部の痛みや痒み、水ぶくれなどの症状が治まらない場合は、服用を中止して医療機関を受診してください。
性器ヘルペスの再発予防目的で使用する場合は、数ヶ月~1年を目安に継続服用が可能です。ただし、肝臓への負担が懸念されるため、定期的に医療機関を受診して肝機能検査を受けてください。
使用上の注意と副作用
使用上の注意
アシクロビルやバラシクロビルにアレルギー(過敏症)の既往がある方は、バルトレックスを服用できません。また、腎臓疾患がある方や高齢者については、精神系の副作用が出やすいことが報告されているため、主治医や専門医に相談の上で服用を検討する必要があります。
バルトレックスと併用できない薬は特にありませんが、飲み合わせに注意が必要な薬はいくつか存在します。何らかの病気で服薬治療をしている方は、バルトレックスの服用を開始する前に医師や薬剤師に相談してください。
バルトレックスでは性器ヘルペスの再発防止効果が認められていますが、服用中もセックスパートナーへの感染リスクがあるため、コンドームの使用などが推奨されています。
副作用
バルトレックスでは、腹痛、吐き気、下痢などの消化器症状や、頭痛、めまい、眠気、発疹、光線過敏症といった副作用が報告されています。軽い頭痛や消化器症状であればさほど心配はいりませんが、強い症状が見られる際は服用を中止し、すぐに受診してください。意識障害(ふらつき、眠気など)も報告されているため、服用後の車の運転や危険を伴う機械の操作などには十分注意してください。
その他の副作用としては、発生率は極めて低いものの、アナフィラキシーショック、間質性肺炎、急性腎不全、重い精神神経症状、血液障害、皮膚粘膜眼症候群、間質性肺炎、肝障害、膵炎といった重大な副作用が知られているため、念のため注意してください。
ヘルペスに効く市販薬やジェネリック
口唇ヘルペスに効く市販薬としては、アシクロビルを配合した「アクチビア軟膏/ヘルペシアクリーム」やビダラビンを配合した「アラセナS軟膏/クリーム」などの塗り薬があります。
これらの薬は、市販薬のなかでも第1類医薬品に分類されます。初めて感染した際には使用できず、再発の場合に限って薬剤師の確認を受けた上で購入が可能です。これは、初めて感染した際には症状がヘルペスウイルスによるものなのかを自己判断しにくく、医療機関を受診して診察を受ける必要があるとされているためです。
口唇ヘルペスの症状が軽い場合には市販の塗り薬での治療で問題ありませんが、症状が重く何度も繰り返して発症する場合は、飲み薬が効果的です。飲み薬の中でも服用回数が少なく体に吸収されやすいバルトレックスは、国内の多くの医療機関でヘルペスウイルス感染症の第一選択薬として処方されています。
なお、バルトレックスの飲み薬は医療用医薬品に分類されるため、薬局やドラッグストアでの販売は認可されておりません。
2000年に国内で承認されたバルトレックスは、特許が切れた後に複数社からジェネリックが販売されており、バラシクロビル錠500mgやバラシクロビル顆粒50%という名称で流通しています。
ジェネリックにもバルトレックスと同じ有効成分のバラシクロビルが同量配合されており、効果はほぼ同じです。メーカーによって錠剤の大きさや形状、色、添加物に違いがあるため多少の使用感の違いはありますが、ほとんど気にならない程度とされています。
バルトレックスと似ている薬
バルトレックスとよく比較される抗ウイルス薬としては、ゾビラックスが挙げられます。
バルトレックスは有効成分としてバラシクロビルを含有しているのに対し、ゾビラックスは有効成分としてアシクロビルを含有しています。 どちらも同じ抗ヘルペスウイルス薬ですが、2つの薬剤の大きな違いは効果の持続時間です。ゾビラックスは効果の持続性が悪いため1日5回の服用が必要ですが、バルトレックスは効果の持続性が良いため1日に2~3回の服用で済みます。
前述した通り、バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグ(吸収率や安定性の向上などを目的に、化学構造の一部を修飾して設計されたもの)で、アシクロビルの化学構造を変化させることによって、体内への吸収効率を高めることに成功しています。
そのため、バルトレックスとゾビラックスでは効果の持続時間に大きな差があります。持続時間以外の作用や効果については、特に違いがないとされています。

















